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忘れ得ぬ道

2023年9月1日

忘れられない思い出の道がある。といっても後になって考えると、あれがどこでどの道だったか分からない。昔はスマホやカーナビなどないので、ドライブや旅行は常にロードマップと睨めっこだった。地図を見ながら運転することは出来ないので、ルートは事前に頭に叩きこんで、後は出たとこ勝負だった。


自分は一度通った道はたいてい忘れないのだが、「忘れ得ぬ道」は道に迷った時に出会うことが多い気がする。その中でも何年何十年経っても忘れられない道が3つある。一つは米子から鳥取砂丘に向かう道、もう一つは仙台郊外から蔵王に向かう道だ。それが正確にどの道だったのかは分からない。高速道路が今ほど網羅されていない時代だったので、一般道だったことは確かだ。後になってGoogle Earthで探してみたのだが、皆目見当がつかなかったが、美しく神秘的ですらある風景は今でも目に焼き付いている。                                                   

3つ目は長野の小川村の道だ。星空が日本一美しいと言われる小川村も、近年では近くに高速道路が作られ、かつてほどの秘境ではなくなった。自分が学生だった頃、自分の車に同級生4人を乗せ、北アルプスの鹿島槍スキー場に向かう時のことだ。その時に何故長野市方面から向かったのか憶えてないが、中央高速ではなく国道17号線で北上していた。碓井峠を越え、上田を過ぎても雪はまだ路面を覆っていなかったが、そろそろ大町方面に進路を取らなければと思い更埴付近で西に進路を取り県道に入ると一気に白い路面が現れ、付近の風景も真っ白に変わった。チェーンを付けようと仲間と四苦八苦するが、初めてチェーンを付けるだけでなく、そのチェーンのサイズが大きかったらしく、うまく取り付けることが出来なかった。しかしそのまま行くしか方法はなく、トンでもない振動で雪の路面を途方に暮れながら四苦八苦走っていたところ、奇跡的に小さな金属工場を見つけた。まだ朝の8時過ぎだったはずだ。無理を言ってチェーンを切って短くしてもらい、固辞する店主に代金を受け取って頂き、無事に雪道を進むことが出来た。すると同級生たちは車内でスヤスヤと眠りだし、自分一人が雪道と白い風景を独占していると、ちょうど流れてきた音楽はユーミンの「雪だより」(アルバム/SURF & SNOW)だった。音楽と風景が見事にマッチして一人静かに感動していたが、バックミラーを見るとムサい野郎どもの寝顔が嫌でも視界に入り、そのギャップに困惑しながらも白いワインディンロードをひたすら進む。1時間くらいでいきなり青木湖の畔に出た。ここから鹿島槍は目と鼻の先だ。同時にムサい野郎どもが間抜けな顔で起き出し、自分の気分を現実に引き戻した。        

10年位前に一人で志賀高原でスノボーをした帰りに小川村を通ってみたが、GW明けの道はすっかり雪が解けて白い道ではなかったけど、鹿島槍や五竜を望める新緑の明るい風景に改めて感動した。今でも「雪だより」がユーミンの楽曲で一番好きだ。

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