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2024年8月17日
夏になると、若い頃に太平洋沿岸を友人と2人でボートを積んでサーフトリップしたことを思い出す。神奈川在住なのに湘南に繰り出す勇気がなかったため、普段は房総の片貝海岸がホームだった。湘南に比べると片貝はあまり人はおらず気楽だった。とは言っても、自分は旧友の、友人は弟のボードを借りていたのだから、初心者もいいところだった。なんせ、訳も分からずリーシュコードを手首に結んで「動きにくいなあ」と言っているくらいだ。しかも本気でサーフィンなどする気もなく、普段仕事で疲れているのに深夜から出てきているのだから、休んでいることの方が多かった。しかもシャワーもあり冷たいものもあるということで、我々はいつも「海の家」を根城とした。他は知らないが、片貝で「海の家」で寛ぎ昼寝をして、シャワーを浴びて帰るサーファーは我々だったはずだ。
そんな我々が「サーフトリップ」を決行したのは夏真っ盛りのある日だった。焼津あたりで高速を降りて、御前崎を目指していると「静波」という美しい海岸に多くのサーファーが遥か沖で波待ちしているのが見えた。「おー!いいねえ」と満足に乗れもしないのに、早速車を降りてボードを持って海に入った。ところが海に入って分かったのだが、「深けえー、そんで波がすんごく高い!」と驚いてしまった。よく見ると波に綺麗なチューブが出来ているほどの絶好のコンディションなのだが、「アイツ、すごく上手い! 波に乗っちゃってるよ!」と叫んでいると、砂浜にはサーファーの彼女たちなのだろうか、これも綺麗に横一列にビーチチェアを並べて彼氏のライディングを見守っている。そしてみんな我らの会話が聞こえたのか、めちゃめちゃウケているのだ。恥ずかしくなり沖に向かってパドリングを開始するが、波が高いので「ドルフィンスルー」を繰り返すが、中々皆のいるポイントに辿り着けない。押し戻されているのだ。しかしビーチのギャラリーが見守る中、戻るわけにはいかない。友人と相談して、沖を大きく迂回してギャラリーを避けて車に戻ることにした。「ちょっとこのポイントは俺らには合わないな」という言い訳とともに、次のポイントを探す。
辿り着いたのは渥美半島のとある海岸だった。ここはさっきのポイントよりも人は少なかったが、沖でターンを決めているサーファーのレベルはプロかと思うほどだった。そしてここにもサーファーの連れのギャラリーが見守っているのだ。ここには海の家がないので、驚くほど静かで「シャーッ」という波がブレイクする音しか聞こえない。素人の我々にも「聖地」という気がして、別のポイントを探した。すると近くに全く人がいない静かな海岸を見つけた。そこは背後が丘陵になっていて、プライベートビーチのようだった。早速ボードを持って入水しようと思うと、海岸に注意書きの立て看板が目に入った。「この辺りはウドが発生してとても危険」的な内容だ。「ウド」というのはこの辺りで呼ばれる離岸流の呼称のようで、片貝にも「ミオ」を呼ばれる離岸流があった。泳ぎに自信のない自分はすっかりビビッて諦めたが、泳ぎに自信のある友人は果敢にも沖に漕ぎだした。すると、恐っろしい速さで横に流されていき、車に戻って助けを呼びに行こうとすると、遥か右側に見える漁港のテトラポット上にボードが跳ね上がるのが見えた。賢明にも岸に戻るのを諦めて流されるままに沖に行き、遥か堤防から歩いてその友人は戻ってきた。
そろそろ今日の寝床を探さなければならない。薄暗い中、伊良湖岬の先端に近い「恋路が浜」という海岸にテントを張って、買い込んでいた酒を飲むと二人ともいつの間にか泥のように眠ってしまった。
次の朝、子供のはしゃぐ声で起きると、すっかりテントの外はビーチパラソルで埋め尽くされていた。我々のテントはそれらのど真ん中でこぼれた酒の異臭を放っていた。ここは一般人のビーチらしいが、下手なサーファーもチラホラ沖に見える。ギャラリーが素人となると俄然やる気になって、ギャラリーを掻き分け入水した。こういう状況には強い我々。
パドリングにドルフィンスルーを繰り返し、「相当沖まで来ちゃったかなあ」と振り返ると、すぐそこで、子供たちが砂遊びをしている。「戻されてんじゃん!」と動揺したが、ここにも潰れた波が押し寄せてくる。いいところを見せようとその波に乗ろうと四苦八苦していると、まるでボディボードのように腹ばいのまま波打ち際まで滑って来てしまう。しかしそれはそれで楽しく、すっかりボディボーダーと化して波打ち際で子供たちと戯れた。
今夜はテントに泊る気力はなく、名古屋市内のビジネスホテル「きよし」に泊まることにした。「サーファーはやっぱクラブでしょ!」ということで、名古屋市内のクラブに繰り出したが、我々の他に1組しかいない寂しいクラブで、早々にホテルに戻って寝た。
翌日はポイントを求めて夕方まで伊勢・志摩の方まで走ったが、リアス式海岸でサーフィンできるわけもなく、明日から仕事なので東京に戻ることにした。途中名古屋市内だろか、たまたま見つけた食堂で夕食を取ることにした。店内はほぼ満席で空いていた唯一のテーブル席に座りメニューを見ると、看板に「きしめん」の文字が入っていたように、きしめんがメインの店のようだが、「きしめん」はデフォルトで「 + 味噌カツ」や「+ 天丼」のように定食が多かった。二人とも味噌カツ定食を頼み、店内の客がほぼ注視していたテレビを見ながら「ジャイアンツが負けているじゃん」と友人に話しかけると、客全員がこちらを見た。ここは名古屋だった。「す、スミマセン」と誰に言うでもなく謝ると、何事もなかったように皆の視線はテレビに戻った。「きしめん+味噌カツ定食」がほどなく運ばれてきて、何気なしに味噌カツを頬張ると、二人同時に唸った。「ウ、ウメイ」 何だこりゃ、味噌カツというモノをこの時初めて食べたが、こんな旨いものを食ったことがなかった。きしめんも「うどんの出来損ない」程度にしか思ってなかったが、ここのきしめんも別格だった。後にも先にもこのきしめんと味噌カツを上回る名古屋料理にお目に掛かれたことはない。
何年か後にその友人とその店を探しにいったが、結局場所も店名も分からずじまいだった。遠い夏の日の幻である。