スエズ運河で風に流されたコンテナ船が座礁して、運河の航行を妨げているというニュースを見た方も多いと思います。コンテナ船にはEVERGREENという文字が見えるので、台湾の大手船社の船と思いきや、所有は愛媛の会社ということです。船の所有と運航はオーナー社とオペレーター社が分かれていることが少なくありません。今回の船は愛媛の正栄汽船がオーナーであり、台湾のエバーグリーンがオペレーターとなります。
実は日本の愛媛や広島にはオーナー船社が多いのです。当然、造船所が瀬戸内海に集中しているからなのですが、正栄汽船がある今治には国内最大、世界でも第3位の今治造船の本社があります。今治はタオルで有名ですが、造船関連でも国内有数の規模を誇っていて造船会社やオーナー船社も多いのです。
一方、大手船社でも自社の所有でない船を運航している会社は少なくありません。オーナーは一種の投資で船を貸し出し(船を担保に銀行から借り入れて造船した船を、返済額を上回るリース料を取れれば利益となる)、オペレーターは大きな投資なく船を運航出来るので、このような共存関係がなりたっているのです。
ところで一躍脚光を浴びたスエズ運河ですが、1隻の船が座礁しただけで通行止めになってしまうほど細い運河(複線部分が4か所ある)で、パナマ運河と構造上違うのは閘門(パナマ運河は高低差があるのでいくつかある閘門によって水を堰き止め、進行方向の閘門を開門することで高低差を均す)がない水平運河ということです。つまり海と高低差がないのですが、砂漠の真ん中を浚渫した約200km(沖縄本島の南北端直線距離で約106.6km) の壮大な運河のため、通行料も莫大で、1回で2千万円から5千万円掛かります。スエズ運河がなければ喜望峰を回り、燃料も人件費も時間も掛かるために、この費用を払ってでもスエズ運河を通過する船が多いのです。ロンドン - 横浜間を例に取ると、アフリカ回航では26,900kmかかるところを、スエズ運河を通れば距離は20,000kmとなり、24%の航行距離の短縮となるため費用も時間もその分抑えられます。しかし紅海やアデン湾には海賊も多く、いざという時の保険料も高額になるため、人命優先とともに喜望峰回りをとる船もあります。
スエズ運河を航行出来る船の最大サイズには制限があり、その制限いっぱいの船をスエズマックスと言います。(パナマ運河を航行出来る最大サイズはパナマックス) この運河の最大サイズを上回る船をスーパースエズマックスもしくはケープサイズと呼びます。最近はコンテナ船の大型化が顕著になっていますが、コンテナ船の大きさを表す指数はTEU (twenty-foot equivalent unit)といい、簡単に言うと20フィートコンテナが何個積載できるか、という数字です。
今回のEVERGIVENは20,000TEUの最大級のコンテナ船ですが、最近では20,000TEUを超えるサイズの造船も始まっています。しかし船の大型化に港湾整備が追い付いていないのが実情です。それにしても、海上運賃の高騰とコンテナ不足が国際物流の大問題となっている最中の事故、新たな影響が出ないように早く復旧して欲しいものです。
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