貿易の経験がある人ならATAカルネという言葉に「あー、面倒なヤツが来たなあ」と反応するでしょう。展示会や見本市などのために納税せずに一時輸入が認められる書類。
私もかつてトランクショーやファッションショーを行うラグジュアリーブランドの会社にいた時に悩まされました。
ATAとはフランス語のAdmission Temporaireと英語のTemporary Admissionの頭文字を詰めたもので、日本での正式名称は「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約」となっており、その運用と取り決めは「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)の実施に伴う関税法等の特例に関する法律」で定められています。
A国→日本→A国のような1往復のために使うよりも、A国→日本→B国→C国というように、複数国を転々と対象物品が旅をしていくような時に有効で、前述の通り商品見本、展示会への出品物などの商業的サンプルを外国へ一時的に持ち込む場合、一時免税輸入の手続きを容易にする制度で、ATAカルネ(通関手帳)は、通関書類と輸入税などの支払保証書の機能を兼ね備えているものです。手帳と言ってもメモ書きするためのものではありません。
日本では「日本商事仲裁協会」に申請します。
但し以下の条件があります。
日本へ持ち帰らないもの
輸出時と形状・性質が変化するもの
消耗品や食品、価額が0円のもの
修理や加工を施す物品
貸出等でリース料が発生するもの
各国の法律で輸出入不可のもの
大型掘削機など自然破壊に通じる用具
カルネの場合、サンプルですから品番がないことも多いので、一時輸入時に全アイテムに仮品番を書いたタグなどを付けて写真を撮って記録します。この作業は一時輸入時は通関前に行うので保税蔵置場で行います。自社がカルネ名義人でこれから輸出しようという時は通関前に上記の作業を行っておきます。(場所は問いません)
これで再輸出時に一時輸入した時と形状に変化はないか税関が照合します。再輸出時に数量が足りなかったり形状が変わっていたりすると、輸入課税対象になります。
実際に私も経験したのは、海外からATAカルネで回ってきたサンプルを、コレクションショーなどを見て気に入ったお客様が「いくらでもいいのでどうしても買いたい」とか言い出した時です。いるんですよね、こういう我儘なご富豪様が。
カルネは一時輸入のための免税手帳のため、原則すべての物品を日本へ再輸入する必要があります。ATA条約上、一部の販売はカルネの使用義務違反となり、カルネ名義人に輸入税等の支払い請求があります。
「それでもいい。売ろう。」 営業が強い会社だと、そういう決定もなされます。そうなると輸入業務担当者は税関に説明に出向いたりお叱りを受けたりかなりのストレスを受けつつも鍛えられるわけです。
またカルネ手帳の有効期限までに再輸出しなかったり、一部(全部)のサンプルが紛失したりしても課税されます。有効期限はカルネの発効日から1年なので、諸国を回りまわって来たために有効期間が残りわずか、なんて場合もあります。
この輸入税はカルネ手帳の発行機関に当該税関から請求され、発行機関(日本の場合は日本商事仲裁協会)はカルネの名義人に手数料などを加算して請求します。このようなリスクが発行機関にはあるため、カルネ手帳と発行する際は一定の担保を名義人に求めたりします。
あり得ないミスと思うかも知れませんが、ATAカルネ通関で一時輸入しておきながら、再輸出の時にカルネではなく通常の輸出をしてしまったこともあります。通関業者任せにしているとこういうことも起こり得ます。
なお、ATA条約は現在約80ヵ国が加盟しています。当然非加盟国はATAカルネが使えません。ATA条約非加盟国の台湾と、日本の間にはSCCカルネというものがあります。
SCCカルネも国内では日本商事仲裁協会が発給しますが、ATAと違い1往復のみに使えます。ATAもSCCも日本商事仲裁協会のHPに詳しい発給方法、手帳への記入例などが説明されていますので、さらに情報が必要な方はご確認下さい。
補足ですが自動車には専用のAIT/FIAカルネがあり、商業目的の展示会等ではなく、自動車旅行やレースやモータースポーツなど自家用車の海外での利用が対象となります。
こちらはATA条約ではなくジュネーブ条約で定められており、日本での発給機関もJAF(日本自動車連盟)となりす。
カルネ(Carnet)の意味ですがフランス語で「手帳」のことです。
ですのでカルネ手帳だと手帳手帳になってしまうので条約名+カルネが正しい名称ですね。
関係ないですけどカルネと聞くと那覇市小禄のハッピー洋菓子店のド定番コロネと、ゴッドファーザー3でドン・アルトベッロが毒殺されるカンノーロ(イタリアのコロネ型のお菓子)を思い出してしまうのは私だけでしょうか。
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