今回はインコタームズのFグループについてご説明します。
Fグループは輸出国で輸入者に危険負担が移行しますので、比較的輸出者にとって有利な条件と言えます。インコタームズの中で最も認知されているFOBもFグループに属します。Fグループは輸入者の手が届かない輸出国の港(本船上)から航海中も輸入者のリスク負担になりますので輸入者側の付保は必須となります。
FグループにはFCA、FAS、FOBの3種があります。
FCAはFree carrierの略で、運送人渡し条件と呼ばれる条件です。文字通り、輸入者が手配した運送人に渡すまでの費用とリスクを輸出者が負担し、その後については輸入者が負担します。輸出の通関手続きは輸出者が行い、積み込みからは輸入者に責任が移行します。
FASはFree Alongside Shipの略で、船側渡し条件です。この条件は木材などの限定された貨物に採用される条件で、対象はコンテナ船ではなく在来船のため一般的にはあまり用いられることの無い条件です。貨物を船の側に置いたときに輸出者から輸入者へと費用やリスクが移転します。すなわち、輸出者は積み込みはしません。輸出通関は輸出者が行います。
FOBはFree On Boardの略で、本船甲板渡し条件です。この条件では、貨物を輸出者が指定した船に乗せた時点で、費用とリスクは輸入者に移転します。FOBはCグループのCFRやCIFと同様頻繁に使われる条件でもありますが、コンテナやガントリークレーンの発達した現代では実情と乖離している気もします。なぜなら、コンテナを使用する海上輸送の場合、コンテナをCYから船舶上に積み込むのは実際には港湾業者や船会社が行う業務ですから、輸出者は本船への積み込み作業を実際にはコントロールすることは不可能です。従って輸出者としてはリスクを避けるために、空輸やコンテナ輸送の場合はCYや空港上屋などの運送人の施設で責任が移転するFCAが現実的ですが、知識として持っていても現地に通じないことも多いです。本来FOBは在来船に対する条件、FCAはコンテナ船に対する条件という使い分けがされるべきなのです。FOBとFCAでは、前述の通り、リスクの境界線が異なります。FCAは船積み込みの際ではなく、輸入者が指定した運送人のCYやCFSで引き渡した段階で、輸出者から輸入者に費用やリスクが移ります。FOBでは、船の甲板に貨物を置いた段階で、正確には船の欄干(手すり)を越えた時点で、輸出者から輸入者へと費用とリスクは移ります。航空機による輸送では、その責任移転の時期が確定しづらいので、運送人渡しのFCAを採用するべきです。FOBは輸出者が選定した船に輸出者の責任で積み込みを行うのですが、海上運賃は輸入者負担となります。海上運賃を負担しても航路などは指定できないことも多いので、納期など差し迫っている場合は本船を指定できるCFRやCIFも視野に入れる必要があるでしょう。
Fグループについては2010と2020で大きな変更点はありません。FCAについて売り主又は買主が自己の輸送手段を用いて運送の手配を行うことが認められました。また、FCAでは、輸出国で貨物の船積をする前に船積証明が付記されたBLの発行を求めることができるようになりました。しかしL/C決済でない場合はあまり関係ない事項かも知れません。
輸入者の立場で相手国と交渉する場合、無条件でEXWやFOBを選択する場合が多くみられますが、日本で手配するより海外で海上輸送や航空輸送を手配した方が安くなる場合が多いです。円安であればなおさらです。ただそれらの費用は商品価格に加算されますので、EXWやFOB条件の場合と、DAPやDDP条件の2通りの見積もりを輸出者に依頼することも貿易では重要です。貿易=FOBなどと短絡的に考えないよう注意して下さい。
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