継続的に輸出入を行っている企業には、2~5年に一度、税関の事後調査が行われます。事後調査とは、税関長による輸出入許可がすでに終わった貨物の取引に関する調査です。既許可の貨物に対して行われる調査なので、事後調査というわけです。
税関の組織は日頃の輸出入申告などの審査を行う「業務部」、船舶の監視取締りや税関検査、保税地域などの許可などを行う「監視部」、そして事後調査などを担当する「調査部」に分かれています。(その他税関の管理を行う総務部があります)
事後調査では、調査部の事後調査専門の税関職員が個別に輸出入業者を訪問する形で行われます。一度輸出入許可を出しているにも関わらず、なぜ改めて調査を行う必要があるのでしょうか。事後調査をする権利は、関税法第105条第1項第6号に「税関職員の権限」における「質問検査権」として規定されています。そのため、輸出入業者は税関による事後調査を拒否することはできません。ちなみに、NACCSから輸出入申告を行うと、区分1~3までの3つの判定が行われます。区分1(簡易審査扱い)となった場合は、税関の審査は全くなく即許可となるため、実質的に税関の審査や検査はありません。全ての貨物の審査を輸出入通関時に行うことは不可能ですが、後にならないと分からないこともあるため事後に調査を行うのです。
事後調査にはどのような目的があるのでしょうか。輸出に関する事後調査の目的は、適正かつ迅速な輸出通関を実現することです。しかし、通関業者や通関士などと違って、輸出者は関税法など貿易取引に関する法律を全て理解しているわけではありません。そのために故意ではなく、意図せずに関税法等関係諸法令に違反している例も多数あります。そこで、輸出に関する事後調査では輸出申告が関税法等関係諸法令に従った申告を行っているかを調べます。そして、万が一不適切な申告を行っていた場合は、次の2点を指導します。
適切な申告を行うための指導
「企業における適正な輸出管理体制および通関処理体制の構築の促進」 簡単にいうと、間違っている箇所を指摘し、本来の正しい進め方を指導し、かつ、それを実践するための社内体制を整備するよう指導を行います。
輸入に関する事後調査
輸入に関する事後調査の目的は、「輸入貨物に対して適正な課税を確保する」ことです。すなわち、課税価格は正しいのか、関税率は正しいのか、などを調べます。そして不適切な申告を行っていたことが明らかになった場合は、修正申告を求められる場合があります。特に輸入者が恐れるのは修正申告で、莫大な追徴課税を求められることも少なくありません。
最近ではコロナ禍やウクライナ情勢等による世界的な原材料価格等の高騰で、日本への輸入貨物について、輸入許可後に輸出者から原材料費や人件費等を追加で請求されために、輸入許可後に追加分を支払うというケースが多く発生しているようです。この場合、追加で支払った費用について、修正申告が必要となる可能性が高いのですが、これを行っていなかったがために、税関の事後調査により申告漏れが指摘され、加算税が課されるといった事案が中小企業を中心に増えているとのことです。
それ以外に頻繁に起きるケースとしては、次の事例があります。
INVOICE価格以外に、運賃、型代、版代などの追加費用を輸入前や後に決済する場合
輸入時はProforma Invoiceで輸入して、本決済を事後でDebit Noteなどで行う際、輸入時の申告価格から著しく乖離する場合
原材料を国内で調達したものを無償で輸出者に提供して、その価格が加算されていない場合
ロイヤリティや特許使用料など契約上継続的に発生するものを、一時払い(或いは年や月払い)しているもの
移転価格
分割払いによる前払いや後払い
移転価格については少々話が複雑になるので割愛しますが、ようは輸入申告する際に本来はINVOICE価格に加算して課税額を算出しなければならなかったものが漏れていた、ということです。大別して「過少申告」(Under Value)と「評価申告漏れ」の2種類が一番発生件数の多い事例です。詳細には触れられませんが、税務調査と同様に、事後調査が入った以上、手ぶらで担当官が帰るということは余りありません。全ての支払いの記録を調べて、それが申告価格と一致しているかを1件1件照合していきます。もちろん「知らなかった」「気が付かなかった」は通りません。その場合は管理体制にも問題があったということで、正しい輸入申告が行えるような社内体制の整備を求められる場合もあります。
事後調査の際には税関より、輸出入に関する以下の書類などを提出するように求められます。
輸(出)入許可書
インボイス
決済書類(支払い記録)
原産地証明書
発注書
B/LまたはAWB
保険証書
組織図
ちなみに、輸出入関連書類の保存義務は5~7年ですが、事後調査時には過去3年前後遡って書類の提示を求められるのが一般的です。
事後調査は違法な行為をしている情報を税関が事前に掴んでいない限りは、通常2週間~1ヶ月前に連絡があります。前回の事後調査時に問題があった輸出入業者や、輸出入量が急激に変化した輸出入者は頻度が多くなるかも知れません。
まれに関係会社にも調査が拡大する場合もあります。
事後調査の日数は輸出入業者の貨物量や申告件数によって異なります。2日程度で終わることもあれば、1週間かかることもあります。
事後調査時に税関職員から指導された修正申告は、基本的に素直に従うべきです。指摘事項に納得がいかない場合は、不服申し立てを行うことは可能ですが、いい結果にはならないはずです。修正申告は勧奨であるため、行うかどうかは自由ではあるのですが、今後の輸出入審査に大きな影響を及ぼすことも考えられますので、応じるのが無難です。よく「お土産」という表現もされますが、何らかの指摘事項や追徴を行うことで税関職員も上司に成果を証明したいのではないでしょうか。
事後調査で指摘される修正申告では、次の加算税が発生します。
過少申告加算税 10%
無申告加算税 15%
ただし、隠蔽や書類の改ざんを行うなど明らかに意図的で悪質なケースは、さらに40%の重加算税が科せられます。場合によっては、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金も科せられることがあります。
過去5年以内に無申告加算税もしくは重加算税を同一の税目で徴収されている場合は、さらに加算税10%がプラスされます。具体的な税率は次の通りです。
無申告加算税 25%(15%+10%)
重加算税(過少申告) 45%(35%+10%)
重加算税(無申告) 50%(40%+10%)
このような加算税は企業の経営も危うくさせます。少しでも疑問に思っことは早めにロジスティーダジャパンにご相談下さい。修正申告を代行することはもちろん、輸出入者様が不安なく事後調査を受けられるようにアドバイスをすることも弊社の大切な仕事です。事後調査を怯えて待つのではなく、自社の適正な申告を再証明する機会でもありますし、日頃の疑問を税関に確認するチャンスでもあります。通関業者とのコミュニケーションは密に、書類の保管はしっかり行っておきましょう。
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