移転価格(Transfer Pricing)とは、一定の資本関係のある国際企業グループ内の取引価格のことをいいます。たとえば、日本のメーカーが日本国内で生産した自社の製品をシンガポールにある子会社で販売する場合、その企業はその子会社に対して輸出販売する取引額が移転価格になるわけです。この移転価格はグループ間の取引でも企業経営の収益に大きな影響を与えるだけではく、各国で支払う税額の操作の疑いを招くことがあるために十分注意する必要があります。これはあまり大きな声では言えませんが、国税庁や税務署、税関が流通小売系の国際企業の税務調査や事後調に入る場合、移転価格に注目することは常識となっています。
国際企業の場合、各国の業績も重要ですが、経営者はより大きな括りで経営判断をします。法人税の高い国での収益は抑え納税額を減らし、法人税の低い国に利益を集中させることで節税となる場合があります。しかしここで注意しなければならないのは、不当に取引額をグループ間で小さくしたり大きくしたりすることは、グループ全体でみた法人税を、税率の低い国に利益配分が大きくなるよう操作することです。これは違法になり罰則を受ける可能性があります。租税特別措置法第66条の4がそれに該当するのですが、敢えて簡単に説明します。
租税特別措置法第六十六条の四(国外関連者との取引に係る課税の特例)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026#Mp-Ch_3-Se_7_2
グループ間での取引価格を小さくすると法人税にどう影響するのでしょうか。例えばオーストラリアに本社がある企業で、同じ製品をシンガポールと日本にそれぞれ輸出するとします。シンガポールの法人税率は17%です。(居住法人に対する優遇税制も設定されているため、居住法人の場合には、さらに実効税率低くなる) 日本は23.2%(中小法人は軽減税制あり)ですから、利益を日本よりもシンガポールに集中させればグローバルでみた法人税は少なくすむわけです。そのため日本への売値よりもシンガポールへの売値を低く抑えれば、シンガポールの現地法人はより多くの利益を生み出しつつも法人税は低く抑えられます。それを防ぐために租税特別措置法第66条の4では、一定の資本関係のある国際企業間の取引は、独立した資本関係のない企業と同等の価格で取引したとみなし、その価格と上下する場合は調整して課税する、というものです。もっとわかりやすく言えば、不適切な移転価格の設定によって各国の税収が歪められることを防ぐため、独立企業間価格を基準にして取引を行うことを移転価格税制は求めている、というものです。これは日本に限られたことではありません。そのため、当局はグループ企業間の取引と、非グループ企業との取引価格の相違をまずは徹底的に調査します。
ここで不当な移転価格が認められれば二重課税のリスクが発生します。例えば日本の国際企業から傘下のシンガポールの子会社への販売価格が100,000円とします。しかし仮にグループとは関係のない第三者であるインドの企業に対しては同じ商品を150,000円で販売していたとします。税務当局はこの差を見逃しません。「あなたの会社は移転価格を100,000円にすることにより、50,000円の利益をシンガポールの子会社へ移転していた」と判断します。そこで、当局は子会社への販売価格は第三者(インドの取引先)への販売価格と同じ150,000円であったとみなし、課税(更正)します。つまり、実際はシンガポールの子会社へ100,000円で販売していますが、当局は150,000円で販売したとみなして50,000円分の売上(厳密にはその収益)に対して追徴課税するのです。さらにシンガポールの税務当局は本来は150,000円のところ100,000円で日本から安く仕入れたとして、50,000円の収益に対しての課税をします。こうなると日本でもシンガポールでも追徴課税が発生します。これを二重課税と言います。このような事態を避けるためには移転価格規制についてよく理解し、二重課税されるようなことが起きないようにしておかなければなりません。
さらに注意しなければならないのは関税です。このように不当に国際間の取引価格を操作すると、関税評価の問題にも発展しますのでさらに注意が必要です。意図的でも意図しないでも、国際間の価格設定には十分注意を重ねて下さい。
Yorumlar